朝日新聞 2006年9月25日掲載
ソリテュード(積極的孤独)取材を受ける時に留意していることがある。
それは以下の3つである;
1)ソリテュードとはポジティブに物事を考えられる強い人だけが恩恵を受けるものではない。「ひとりで居られる能力」は誰にでも備わっていることを説明する。
2)ひとりの時間の大切さを伝え始めると多くの取材を受けた後、「おひとり様」という言葉が一人歩きし始めた感がある。スタートは「おひとり様」からでも、その向こう側にある深いメカニズムを一部でも伝えること。
3)自分の体験を盛り込むこと。
よって、この取材は私のぼろぼろ体験を語ることから始まっている。1)と2)を伝えることは紙面や時間、テーマ制限により時として難しい。
記事の最後で、ソリテュードは他者を遮断するのではなく心の深くに思いを致し、その結果もっと楽に他者と関われる生き方提案であるという私の趣旨を「自分という海の中へ深くゆっくり泳いで行く感覚だろうか。またぽっかりと海上に出ると太陽の輝きやにぎやかな人の声がうれしいような」と纏めて下さった編集者の咀嚼力と感性に感謝である。
小紋の単(ひとえ):ベージュに黒で幾何学模様が染められている。写真映りがよいので活躍の一枚は横浜の骨董市にて。黒の半えりできりりとドレス・ダウン。
本当に心身ともにボロボロになってしまったとき、人はどのようにして立ち直るのだろうか。自身もその状況を体験して、津田さんは一人の時間に答えがあると気づいた。
「かつての私は、格好良いスーツを着て時差をものともせずに飛び回り、国際電話をかけまくるという仕事人間でした。転職のたびに給与も上がり、やがて自分の会社を起こし、私って成功者の仲間入りができるかもと思ってた(笑い)。
でもある日、人に会いたくない、電話もできない、家の中で歩けないという信じられないことが起きたのです。生きていたくないと思い詰めるほどでした」
頭は空っぽ、何も考えられずどのくらいそうしていたかも分からない。そしてふと外を見ると美しい夕日があった。ああ、きれいだと感じた瞬間から、ゆっくりと薄皮をはがすように自分の感覚が戻ってきたそうだ。
「人からも認められ、何でもコントロールできる自身があったので、この体験は衝撃でした。
でも、私はなぜこんなふうになり、そしてまた生きる力がわいたのか。考えるうちに孤独の持つ力に思い至ったのです。寂しいという孤独感(ロンリネス)ではなく、私を静かに安定させ、内面を発酵させてくれた大切な孤独の力がある。それに私はソリテュード=積極的孤独と名づけました。これで本当に楽になった」
心理学の分野で、この孤独の持つ重要な側面に焦点をあてた研究が十分ではないと感じ、津田さんは大学院入学、修士論文完成まで突き進んだ。そして今、子供社会から大人まで日本中に満ちている「いつもみんなと一緒に、元気で明るくいなくては」という呪縛から解き放たれよう、と語りかける。
「仲間はずれにされてるわけじゃなく、一人で静かにいることが好きなんだなと知ること。それでまた人と仲良くするパワーもわいてくるのですから」
自分という海の中へ深くゆっくり泳いでいく感覚だろうか。またぽっかりと海上に出ると、太陽の輝きやにぎやかな人の声がうれしいような。津田さんから、安らかで新しい価値観をもらった気がする。
by @kazumiryu